シティオケコラム 読んでおいしい音楽♯32




♯32 誰がために鐘は鳴る


日頃はご先祖様に不義理な私も、年に何度か仏前に手を合わせる時があります。お盆もそのひとつ。お線香を供え、鐘をたたき、手を合わせ、小さな鐘の音が細く消えてゆくまでご先祖様に語りかけます。

日本の夏にはそんな風景があちこちで見られます。今日は『鐘』のお話をしましょう。

作曲家というのは音が出るものなら何でも楽器にしてしまうという才能の持ち主です。

例えば、ベルリオーズの「幻想交響曲」の第5楽章では「ド」と「ソ」の音の『教会の鐘』を使うように指示されています。教会の鐘の音がそんなに都合よく「ド」や「ソ」に合わせてあるはずもありませんが、今では、専用の『幻想交響曲の鐘』が存在します。



私たちがこの曲を演奏することになり、ある東京のレンタル楽器屋さんに問い合わせたところ、1日のレンタル料金は4万円。前日のリハーサルを考えると2日間、しかも送料など諸々で大変な費用がかかりますから、アマチュアオーケストラではとても使えません。

そこで、普通『チューブラーベル』という楽器を使います。金属製のパイプが何本も吊り下げられた楽器で、「チューブラ」とは「宙ぶらりん」という意味ではなく、チューブすなわち「管」を表したものです。『NHKのど自慢の鐘』と言えば分っていただけるでしょう。

また、チャイコフスキーの大序曲「1812年」では、曲の終盤に鐘が鳴らされます。
1812年は、ナポレオンがロシア遠征に敗北した年です。曲は仏ナポレオン軍とロシア帝国軍の戦いを描写し、最後はロシアの勝利を讃える構成になっています。ここで勝利を告げるのが「鐘」です。作曲者は、大砲を合図に『モスクワ中の教会の鐘』を鳴らすつもりだったものの、さすがにそれは叶わなかったという逸話も残るくらいです。

オーケストラの楽器に混ざって鐘が鳴る時、日常の反対側に位置する特別な世界に誘い込まれるような感じがします。

今年も8月6日、鐘の音が広島の平和公園に鳴り渡りました。『平和の鐘』です。9日には『長崎の鐘』が鳴りました。終戦記念日にも、多くの人が『祈りの鐘』を鳴らしたと新聞が報じていました。

しかし、戦時中はこれらの鐘が鉄砲の弾になっていたと聞けば、鐘の音のありがた味はことさらに増します。

少し先の話になりますが、除夜の鐘は人の煩悩の数だけつかれると言います。
私も大晦日には煩悩を払うべくお寺に鐘をつきに行きますが、ついた後は自然と手を合わせます。鐘の音は、私たちを、今とは違うどこか別の世界に向かい合わせてくれる特別な音のようです。

文豪ヘミングウェイが同名の小説に引いた「誰がために鐘は鳴る」の一節では、「鐘は私やあなたのためだけではなく万人のために鳴っているものだ」と説かれています。
鐘の音は遠く広く響き渡り、みんなの心に染みていくのです。



~今月のシティオケ情報~
8月18日(日)の月一ライブ(10:00開演:府中市文化センター)では、本団クラリネット奏者グールドフィンガー氏とその仲間によるクラリネットアンサンブルをお楽しみいただきます。

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